【考察と感想】『安達としまむら』8巻。無視されなかった時間という概念。 〜オルタナティブ百合小説としての小説「あだしま」〜

3.5
レビュー記事
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今年5月発売(Kindle版は6月発売)の『安達としまむら8 (電撃文庫)』の感想を書いていきます。

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実験的恋愛小説としての「あだしま」

実はこの小説、Kindle発売時に即購入して読んでいたのですが、感想をどう書こうか悩みあぐねていて、少しブログ執筆を放置していました。
放置している間に記事のタイトルだけメモしていて、それが現在の記事タイトルの「無視されなかった時間という概念」というフレーズです。
このフレーズを起点に、私が少し感じ考えたことを書いていければと思います。
まず僕が感じたのは、前巻7巻ぐらいから感じたことですが、この小説が非常に実験的であるということです。
また、それは計画されたものというより、もっと散文的であるがゆえに、作者、入間人間先生の素の感情、感覚がこもったものだと感じられます。

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プルースト的導入部と、無視されなかった時間という概念。

この小説は安達としまむらが海外旅行に行く準備をしているところから始まります。そこでは、前作から約10年のときが流れて (!) いて、二人はそこでは大人になり、なんと同棲しています。

なにこの安心感。。(*´∀`)

翌日、2人が空港についた時、しまむらが感じた旅の空気感、旅立ちの感じ、その感覚が二人の記憶をほどいていくかのように、高校生時代の修学旅行編が始まります。
この導入は、ほとんどプルーストの失われた時を求めての導入のオマージュかもしれません。
歳を重ねた主人公が枕元の紅茶の香りから、若かりし頃の記憶を辿る、あの導入です。


失われた時を求めて 1 第一篇 スワン家の方へ 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

学園ものの百合というとき、修学旅行というのは一つのクライマックスになりえます。
なにかの事情ですれ違い、仲たがいしてしまった二人が、修学旅行という一大イベントでお互いの気持ちを確認しあうというのは百合小説、恋愛小説、マンガでは王道のスタイルです。
私の大好きな漫画、『GIRL FRIENDS』や『citrus』でもやっぱり修学旅行というのは、クライマックスでくる大きな山場になっています。


GIRL FRIENDS : 1 (アクションコミックス)


citrus: 1【特典付】 (百合姫コミックス)

『あだしま』の修学旅行はそれとは一味違っています。

特別クライマックスになるような山場もなく、淡々と行事が進んでいきます。本当に、じれったいくらいです。

おふろの場面はよかったけど。(笑)

ほんとに大きな盛り上がりはないのだけど、すこしずつ、すこしずつ、ふたりの距離がなじんできて、何か、それが10年後のシーンにつながるような、そんな心地よさがあります。

GIRL FRIENDS、シトラスなど学園の百合物はほんとに儚くて、せつなくて、好きなのだけど、その一瞬、その一年が終わったらどうなってしまうのだろうと、ふと不安になる時が来ます。
彼女たちが卒業したら?大学生になって環境が変わったら?
その未来を考えた時、考えないように目を背けてしまう自分がいます。

『あだしま』はそんな不安に一つのすじみちを示してくれています。

それは燃え上がるような恋ではなく、必ずしもドラマチックとは言えないかもしれないけれど。。。

学園ものの百合小説というジャンルの中で、脇に置かれがちな時間という概念を取り戻してくれた小説です。

それは先に挙げたような王道の百合的ストーリーとはまた違う路線です。
アンチ、というのは少し強いですが、オルタナティブな百合小説です。

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オルタナティブ百合小説、オルタナティブ恋愛小説としての、小説『安達としまむら』8巻

『安達としまむら』7巻のあとがきにて、入間先生が運命について書いています。

私は運命というものがなにかをいつも考えています。
考え続けていると時々、なにかを紐解くように気づくことがあります。
・・・
私は誰かと出会うときも、誰かと別れるときも、そんなことばかり考えています。

安達としまむら7 (電撃文庫)

布石はほかにもありました。
7巻では、『もし体育館二階で出会わなかったら』という章で、社会人になった安達としまむらが、初めて出会うifを描いています。


安達としまむら7 (電撃文庫)

7巻あたりから、入間先生本人の思索的な側面が非常に出たシリーズとなっていて、そのなかで運命というのが著者の大きなテーマになっているようです。

具体的に『あだしま』で言うと、安達としまむらは、状況がどうであろうといつかは出会う運命で、たぶん、それからは、二人はずっと一緒にいるだろう。という事なのではないでしょうか。

だから修学旅行がとびっきりのはっちゃけたイベントである必要はなかった、いやむしろそうであってはならなかった。
修学旅行も長い人生の中で二人がはぐくむ思い出のひとつである必要があったのだと思います。

何かそういう、著者の思索的な側面が、『あだしま』オルタナティブな百合小説にさせています。
これが好きかどうかは読む人次第だとは思いますが、実験的で素晴らしい作品であることには違いありません。

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「ヤシロ」と運命について

「ヤシロ」と運命。

このあたりは、おそらく入間人間先生の作品全体に通底する何かなのだと思いますが、今回はここまでは触れられませんでした。また、いつの日かこのことについて書いてみる日が来るかもしれません。

以上、すこしですが、大好きな『あだしま』について書いてみました。


安達としまむら8 (電撃文庫)

コメント

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